料理を飾る特注器

「目で食べる」とも言われる日本料理。当館におきましてもお料理に相応しい器を選び、見た目にも季節や情緒を感じていただけるよう工夫を凝らしております。例えば、別墅 結楽で朝食時に用いている湯豆腐桶も、こだわりの逸品です。この木桶は、三代続く桶屋「中川木工芸」に依頼して特注したもの。京都の料亭や湯豆腐専門店で使用されるものと型は同じですが、材料に椹ではなく檜を使用。それによって檜の香りが湯豆腐を優しく包み込み、見た目の美しさに加えて、香りでも食に趣をもたらします。今でこそめずらしくなった木桶ですが、半世紀前までは生活の必需品でした。道具としても理にもかなっており、炭火でじんわりと温めることで豆腐にすが入ることもなく、大豆の豊かな風味を味わうことができます。
毎年、端午の節句の時期に中央館の会席で使用している鯉のぼりの器もそのひとつ。大小さまざまな鯉のぼりが連なった有田焼の器は特注品です。白磁に塗られた鮮やかな絵付けが有田焼らしく、お料理を華やかに演出します。中央館ではこの他にも、さまざまな器で季節の機微を表現。お料理を目でもお愉しみいただけるよう、季節ごとに趣向を凝らした器をご用意しております。
「食器は料理の着物である」。これは、美食家として知られる北大路魯山人の言葉です。その場に相応しい器で料理を引き立て、かけがえのない食のひとときを飾ることも、私たちが大切にするおもてなしのひとつです。